【書評】『木になった亜沙』今村夏子・著 日常と非現実を接続する力業
悲しくも滑稽で、不穏でありながらどこか美しい。そんな不思議な物語で読者を魅了する芥川賞作家の3つの短編を収めた一冊。表題作の主人公、亜沙は自分が手渡す食べ物を誰にも食べてもらえない。おやつにしていたひまわりの種を保育園で一番仲のいい友達に差し出すが拒絶される。病の床にいる母の口元に握りずしを運んでも米の一粒すら食べてもらえない。欠落感と孤独を抱えた末に杉の木に転生し、わりばしとなった亜沙はある幸福を見つける。 何げない日常と非現実を自然に接続する著者の力業は健在。読後、目の前の世界が少し違って見えてくる。